#007 「夢で逢えたら」からの「あなただけ I LOVE YOU」そして「君は天然色」


 大滝さんの作る曲には1曲1曲に深層的な意味づけがあるのだと思います。たとえば、「大滝くん、この曲はどんな背景があって、どんなルーツをイメージして作ったの?」なんて細野さんから聞かれたとします。大滝さんからは、どの曲についても「ポップス伝」くらいの番組が作れてしまうような音楽史がぎっしり詰まった豊潤な回答が繰り出されそうです。ナイアガラには、決して思いつきの鼻歌だけで作った曲はなく、その曲群は有形無形のつながりを持ち体系化されているかのように思えるんです。

 「夢で逢えたら」から「あなただけ I LOVE YOU 」、そして「君は天然色」に至る一本の道筋を辿ってみても、それが実感できます。

 永遠の名曲「夢で逢えたら」の歌い出しのサビの後で聴かれる、

♪あなたは私から遠く離れているけど〜

というAメロはバリー・マン作品の「MY DAD」(ぼくのお父さん)が引用されているようです。大滝さんのバイオグラフィの幼少期に思いが至ります。ご本人歌唱の「夢で逢えたら」で聴かれる独白、

「今も僕 枕をかかえて 眠っています もしも 夢で逢えたら
その時は 力いっぱい 抱きしめてください 」

ともあいまって、なんだかジーンと来ます。

  ところで、この「夢で逢えたら」がリリースされた当時、ファンからは「♪夢でもし」や「♪春風そよそよ」あたりのイメージが、シレルズの1963年のヒット曲「FOOLISH LITTLE GIRL」に似ているような気がする、という意見が寄せられました。大滝さん自身は、「そんな気もするが似せて作った意識はない」という旨を、述べておられたものです。

 周囲からのそんな声が契機となったのかどうか、後年になって大滝さんがその「FOOLISH LITTLE GIRL」をまるまる下敷きにして作ったであろう曲があります。「あなただけ I LOVE YOU」がそれです。

「♪急ぎ足 なぜかしら 〜 声はずませいつもの場所へ 」

のAメロ、そして、

「心は先に IN THE AIR 〜 あの角曲がれば 」

辺りのBメロまで、コード進行が「 FOOLISH LITTLE GIRL 」から引用されているわけです。この曲は、女性ライターのヘレン・ミラーの手による作品です。キャロル・キング同様、「コード中の一音が徐々に上がる(下がる)」作曲手法であるところの『クリシェ』を印象的に使う作曲家です。

 「あなただけ I LOVE YOU 」のサビに目をやると、ゲイリー・ルイス&プレイボーイズのナンバー「Sugar Coated Candy Love 」から引かれているようです。

   / A / Aaug / Bm onA / Bm E / A /

というコード進行で、構成音がミ→ファ→#ファと上がっていくところが、疑似クリシェ的といえます。

 「Sugar Coated Candy Love 」は彼らの後期の未CD化アルバム「Rhythm of the Rain / Hayride」(1969年)の中の1曲です。

 ゲイリー・ルイス&プレイボーイズといえば、「君は天然色」が彼らの「涙のクラウン」に似過ぎている、とミュージックリサーチ誌上で吹聴した音楽評論家・富澤一誠氏に対して、大滝さんが叱責したうえで謝罪させたという逸話が、都市伝説のように伝えられています。

 しかし、実際のところ、「涙のクラウン」を聴いて、「君は天然色」にどこか似ている、という感想を持たれる人は多いようです。クリシェ的コード展開の相似性にそれを感じるのかもしれません。大滝さんからすれば、ピクシーズ・スリーのヒット曲「コールド・コールド・ウィンター」の方こそが「君は天然色」のルーツソングだ、という気持ちだったのでしょう。

 ご存知のとおり、「君は天然色」はもともと、「あなただけ I LOVE YOU」につづく須藤薫さんへの提供曲の第2弾として作られた楽曲でした。この経緯からすれば、「あなただけ I LOVE YOU」と「君は天然色」の両曲について、「ゲイリー・ルイス&プレイボーイズのクリシェ的な響きが印象的な曲つながり」みたいなものが、大滝さんの無意識下にあったのではないか、という気もします。

 だって、「君は天然色」のBメロで聴かれるところの上昇旋律、

♪今夢まくらに君と会う〜

のところなんて、やっぱり、「コールド・コールド・ウィンター」というより「涙のクラウン」なんですもの。


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