キリンジ


銀砂子のピンボール
アルバム「47' 45"」収録

 堀込兄弟のユニットであるキリンジのプロデュースを長らく手がけて来たのが、冨田恵一です。1999年7月28日リリースのセカンドアルバムでは、弟・堀込泰行の作によるアップテンポな佳曲「銀砂子のピンボール」に軽快なアレンジを施しています。
 この曲はハンドクラップの鳴る3連符タイプのナンバーで、ナイアガラの「ウララカ」経由で、スペクターの「Da Doo Ron Ron」あたりにルーツを求められるように聞こえます。ギター・ソロの音色は、どこか「ウララカ」を想起させる一方で、エンディングでは、スペクターのクリスマス・アルバムで聞かれるようなグロッケンのフレーズをしのばせています。
 冨田恵一の音楽オタクぶりがうかがわれるサウンド・プロデュースなのですが、「ピンボール」「7月28日」「3連リズム」と、なんだかアイテムも揃っているようで。


RAZZ MA TAZZ
LOVE Re-Do

アルバム「Whoopee Basket 」収録

 ラズマタズの1995年のシングル「LOVE Re-Do 」は、ブルボンのテレビCM曲にも起用された名曲でした。2002年7月29日に若くして永眠した、バンドメンバーでギタリストの故・三木拓次が生み出すメロディは繊細で美しく、彼の豊かな才能を感じさせました。
 一見、シンプルなギターサウンドのようでありながら、絶妙に音の隙間をうめるキーボード・アレンジを「LOVE Re-Do」で見せているのは、冨田恵一です。ストリングスで埋めずとも、ナイアガラ・ファンの鑑賞に堪えうる音の厚みになっているように思います。
 せつない曲調にマッチしたキーボードの音色が、エコーと共にサビで鳴る瞬間、曲の世界がグッと広がり「ドラマチック」に展開するのです。実際、冨田恵一は1993〜1994年の時期に、「いつか好きだと言って」、「夢みる頃を過ぎても」など、テレビの青春ドラマのサウンドトラックを手がけていました。


冨田ラボ
アタタカイ雨
feat.田中拡邦(ママレイド・ラグ)


 2000年以降、冨田恵一は、MISIAの「Everything 」、平井堅の「Ring 」、中島美嘉の「WILL 」などのヒット曲の編曲を手がけました。そのストリングスアレンジは、テンションコード的な旋律を用い、実に特徴的なものでした。職人的な仕事に脂が乗り切ったこの流れの中で、彼は自らの名前を冠に、冨田サウンド研究所、すなわち、冨田ラボなるアーチストとして活動を開始しました。
 楽曲ごとに最適なボーカリストをフィーチャリングする手法をとり、「アタタカイ雨」では、ママレイド・ラグの田中拡邦をゲストボーカルに迎えています。田中拡邦はそのクールでソフトな歌声から『大滝詠一・歌声似シンガー』のひとりに挙げられています。知らない人が本作を聴いたら、「すわっ!大滝詠一の新曲?」と思ったりして…。
 冨田恵一が音楽通をも唸らせる最強のサウンド・メイキングの技法を手中にした『アーチスト』となっていく一方で、歌声だけは外に頼らざるを得なかったのは、皮肉のようにも思えます。

 田中拡邦は自分の歌声の特徴を生かし、自らのバンド、ママレイド・ラグでも、ナイアガラフォロワーズな楽曲を確信犯的に演っています。アルバム「MAMALAID RAG 」に収録の曲「カフェテリア」では、サウンドは「木の葉のスケッチ」ばりに山本拓夫のクラリネットを鳴らし、リズムはなんと、ナイアガラ特許ビート(?)である「Velvet Motel 」のリズムを、そのまま引用しています。



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