原めぐみ


見つめあう恋/涙のメモリー

  1981年、とあるプロデューサーが、スペクター・イミテーションのサウンドで料理した曲を女性歌手に歌わせることを思い立ちました。カーペンターズが歌ったヒット曲を、ジューシーフルーツの女性ボーカリストであるイリヤが訳詞し、のちに多くの「戦隊ヒーローもの」の音楽を手がけることになる藤田太士がアレンジしました。
 こうして生まれた原めぐみの「見つめあう恋」は、なかなかの佳作に仕上がっているように思います。とは言え、1960年代のアメリカでスペクター・イミテーションが続出した頃ならいざしらず、スペクター・サウンドまんまをシングル・レコードとして、日本の歌謡シーンに投入したのは冒険的でした。
 B面「涙のメモリー」は、やはりジューシーフルーツの眼鏡のベーシスト・沖山優司が詞と曲を手がけており、さらにポップさを増したスペクター・イミテーションとして楽しめます。

 なお、「見つめあう恋」は20年余の時を経て、2004年にCD化されました。「ミート・ザ・ブリティッシュビーツ!」なるコンピレーション盤に収められています。収録曲も多岐にわたった労作ですので、ぜひ、実際に聴いてお楽しみください。








須藤薫
テンダー・ラブ


 須藤薫の名盤「テンダー・ラブ」のサウンド・プロデュースは小西康陽が手がけ、管弦楽器の編曲は高浪敬太郎が担当しました。この名コンビがこのアルバムで織りなすサウンドは、まさにナイアガラ・ファン向けの逸品でした。
 名曲「つのる想い」「恋のマニュアル・ブック」などスペクター直系の曲をはじめ、ポップスの王道を突いて果敢に攻めているように感じられます。
 ミュージシャンの人数という点でのハンディを、アレンジとリバーブ多めのミックスでうまくカバーし、音壁感も演出されているようです。
 ミュージシャンといえば、このアルバムのベーシストは、前述のジューシーフルーツの沖山優司が務めています。実は彼、このコーナーの前回分に登場した、高橋ひろ「君じゃなけりゃ意味ないね」にも参加して、骨太なベース演奏を聞かせているのです。



YUI
Ring Ring Ring


 浅香唯がYUI名義でリリースした「Ring Ring Ring」は、スペクターのウォール・オブ・サウンドのイミテーションを狙ってつくられた超名作です。ボーカルにリミッターを深めにかけ、オケにもコンプレッションを施すことにより、狭い帯域に音を凝縮し、見事に音壁を構築しています。技術的なことをさておいても、メロディと演奏、歌唱にも勢いが感じられるのです。
 この曲のサウンド・プロデュースの素晴らしさにノックアウトされた私は、作者の安田信二氏の事務所に電話をかけ、ご本人に突撃インタビューをしてしまったものです。
 「あのー、安田さんが他に手がけられたお仕事を紹介していただけないでしょうか…?」

 このときに安田氏本人が強く推されたのが、氏の変名・ミラクルタロウ率いるグループ、ミラクルシャドウの「奇跡の影」というアルバムでした。この中にも、スペクターを意識したモノラル曲「君がそんな奴だったなんて」が収録されています。
 このアルバム、誰かのように自ら綴るライナーノーツがおもしろく、使用楽器のこだわりの紹介が凄いうえに、楽器メロトロンの購入エピソードは抱腹絶倒のストーリーなのです。

 安田氏の仕事については、自らが以下にまとめています。

『安田しん二のアナログメンズ倶楽部』
http://www5d.biglobe.ne.jp/~fabpage/index.html







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