名曲納戸サポーターによる特別寄稿
#03 「ナイアガラ・ファンにおすすめの黒小皿 Barry Mann ソースがけ」前編 Text by Mann-ia
“Hey There Beautiful” b/w “Where Is She” Paul Petersen といえば、『ナイアガラ・トライアングル』のコンセプト・モデルとなった『Teenage Triangle』の一角を占め、Mann や King の諸作品や、「FUN×4」の「ネタ」の1つとおぼしき「Polka Dots And Moonbeams」などをうたったティーン・アイドルとしてご記憶のナイアガラ・ファンも多いことでしょう。その Paul のシングル盤の中から、Mann がAB両面の作曲のみならずプロデュースにもあたった、興味深い1枚をまずはおすすめしましょう。 1962年、Paul がうたった Mann 作品「My Dad」が全米チャート6位に達する大ヒットとなり、それに味をしめた Paul のスタッフは、同作者による同じくしっとりとしたバラード「Amy」を続けるも、これが65位と振るわず、反省。しかし、以後1年余り、試行錯誤を繰り返してはみたものの、Paul の人気はジリ貧で、反省撤回。こうして、1964年、「My Dad」成功の先例にならい、同曲の作者 Mann に、同系統の楽曲の作曲を今度はシングルの両面分、ついでにケチのつきっぱなしの Stu Phillips に代えて制作までも依頼して、本盤は相成ったのでした……とまあ、これはあくまで筆者の推測ですが、まんざら当たらずとも遠からず、冬来りなば春遠からじではないでしょうか。いや、反省なき人々に結局春は訪れなかったのですが、それでも、制作されたレコード自体は裏も表もない美質を備えていました。 「ネタ」にうるさいナイアガラ・ファンならば、A面のサビの導入部、ストリングスの奏でるフレーズに、「A面で恋をして」のCパート(「恋の裏表を〜」)の匂いを一瞬嗅ぎとり、思わずニンマリとされるかもしれません。B面は、上述の私見を裏書きするかのように、エンディングなど、「My Dad」のそれと違和感なくつながるほどで、「隣の家のあの幼い少女はどこへ行ったの? 嗚呼、ボクのこの腕の中の17才のプリンセス、君があの少女なんだね…」なんぞという小っ恥ずかしい歌詞とあいまって、えもいわれぬ口福感にひたれること請け合いです。いずれにせよ、メロディー・タイプのナイアガラ・サウンドを嗜好される向きには、1皿まるごと、きっと味わいつくしていただけることでしょう。 ■Adam Wade “Why Do We Have To Wait So Long” b/w “Teenage Mona Lisa” 謎の微笑を湛えた少女の髪型は、歌詞にそれと歌ってはいませんが、 ♪Mona Lisa with a ponytail〜。 「風立ちぬ」に先んずること18年、あるいは「恋するふたり」から遡ること40年、全編これ「Venus In Blue Jeans」を下敷きにしたとおぼしきB面(作者の1人は、後に「Rhinestone Cowboy」を書いた Larry Weiss )に、口あんぐりになるやもしれません。 もちろん、パロディーはネタ元を知らぬ者にも楽しめるものであるべし、という大滝氏の鉄則レシピにも適った、絶品ともいうべき涼味あふれるそのサウンドは、ナイアガラ・ファンならずともきっとご満足いただけることでしょう。また、A面のMann作品も、アメリカン・ポップスにおけるキュイジーヌ・ボサ・ノヴァ流行の年にこしらえたものだけあって、ラテン・フレーヴァーで調えられた、これまた後味爽やかな一品となっており、裏表問わずご堪能いただけそうです。 ところで、ヴォーカルの Adam Wade 、黒人だというのに、Johnny Mathis ばりに、どこをどう聴いても白人としか思えぬスムースな歌唱を聞かせます。AB両面が、人種横断的〔transracial〕な黒人シンガーの草分けの1人、Nat “King” Cole の代表曲、「Too Young」と「Mona Lisa」をもじったタイトルと内容になっているのは、そのためかもしれません。タイトルつながりということでは、「風立ちぬ」で、「Venus In Blue Jeans」にちなんでか、Frankie Avalon の「Venus」のコーラスの一節が引用されていたことなどが思い合わされます。また、ついでながら、「Venus In Blue Jeans」(Jack KellerとHoward Greenfield 共作)のデモ・レコードは Mann が吹き込んでおり、そんなところに彼と大滝氏との因縁めいたものも感じられます。 後編へ続く・・・ |
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