小林旭の「熱き心に」が1985年から86年にかけてヒットし、小泉今日子が歌った「快盗ルビイ」が1988年にリリースされるなど、1980年代後半になってもナイアガラ・サウンドは、まだ、時代に追いこされていない「旬」のサウンドでした。
そんな中で「そういう路線」を狙って、1987年のアサヒビールのCFソングとしてつくられたのが、尾崎紀世彦の「サマー・ラブ」でした。故・井上大輔さんが作・編曲を手がけ、前田憲男氏が「冬のリヴィエラ」や「熱き心に」ばりに流麗な弦アレンジをしています。「狙って」つくられているので、コード進行は「Tシャツに口紅」などで聴かれる「ナイアガラ哀愁コード進行」が意図的にまるまる使われているようです。同じコード進行を使っている同系列の曲、伊藤銀次さんの「涙の理由を」にメロディ・ラインなどそっくりです。サビではトレメローズやフォー・シーズンズが歌った「サイレンス・イズ・ゴールデン」を思わせるフレーズが登場し、親しみやすい歌謡曲にまとめられています。
歌謡曲作家として極めた井上大輔さんの旋律づくりには「歌ってほしい、親しんでほしい、流行ってほしい」という意図が、込められているように感じます。「サマー・ラブ」の「♪ボートをとめてー」の旋律は「瀬戸の花嫁」の「♪あなたの島へー」と変わらないわけですから。一方で大瀧さんの曲づくりには「『普通』にならないように作ったから、聴いてほしい」という気持ちが感じられます。同じ「哀愁コード進行」であっても、大瀧さんの乗せるメロディは一種独特で、日本の土着の邦楽歌謡から「ほんの数ミリ」外してあるように思えます。
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